「………」
「………」
リリーのじとっとした目と一時見つめ合った後、顎をしゃくって先に入るように促すと、満足そうに笑い「お邪魔しまーす」と言って、こっちの許可なくベットに腰をかけた。「何してるんだ?」
リリーが部屋を一通り眺めた後、何故かベットの下を覗きこみ始めた所でようやく問いかけた。「んー?なんか如何わしいものがあるとしたら、ここかなあと思って」
「あるか。そんなもの」
「みたいねえ。レンくんも16歳なんだから、そういうの興味もっとかないと、いざという時困るよ?」
まったくもって大きなお世話だ。「部屋もいつも通りきれいだし。つまんなーい」
「悪かったな、つまらなくて」
リリーの理不尽な発言に、僅かながらぶすっとして返す。「まあ、そのほうがレンくんらしいか」
「良いのか悪いのか微妙な評価だな」
「その判断はそっちに任せるわ。それより、頼まれてたことだけど」
本題に入ろうとしたリリーの言葉を片手を上げて遮って、レンはドアのある方向に注意を向けた。「お前ら。何やってるんだ、こんな所で」
声のトーンを幾分か落として胡乱な目で見下ろすと、うち新人二人は怯んで視線を逃がし、その下敷きになってる同僚が「あんたら、重いからどきなさいって!」とじたばた抗議している。「べっつにー。迷惑になるようなことしてませんけど?」
「玄関ロビーから尾けてきて、ドアに張り付いてまで他人の話を盗み聞こうとするのは、十分迷惑だと思うんだが?」
白々しくとぼけてくるので間髪いれず切り返してやると、うっと黙り込んだネルに代わってグミが、「気付いてたんですか?」
うっかり墓穴を掘ってしまったことを言ってから気付いたのか、慌てて両手で口を塞いでみせたが既に遅い。「あんな尾行で俺が気付かないとでも思ったか。この馬鹿三人ども」
呆れながらばっさり斬り捨てて、適当に追い出そうとした時、「どうしたの?」
怪訝に思ったリリーがひょっこり顔をのぞかせた途端、ネルの表情が一気に険しくなっていく。「もー、レンくんってばどういうこと?私という女があ・り・な・が・ら」
「は?お前、何言って……」
刹那、ぞっとするほどの殺気を感じて引き付けられるように目を向けると、ネルが鬼のような形相でこちらを睨み上げていた。「どういうことか、教えてもらいましょうか?青少年〜?」
地を這うように低いトーンで詰め寄られ、限りなく面倒な状況に陥ってるらしいことに気付き、げっそりしてきて「あー」と漏らした。「どうでもいいだろ。それよりさっさとどっか行ってくれ」
面倒なので説明を全部すっとばしてこっちの用件だけをいうと、「質問に答えなさいよ、このスケベ男!!」とすぐさまネルの怒号が飛ぶ。「誰がスケベだ、誰が。勝手に変な勘違いするな」
「ほお〜。なら、どこがどう勘違いなのか、説明してくださいます〜?」
どこがというか全部だ、と即座に胸中で突っ込みを入れる。「そうか。なら仕方ないな……」
観念したように言ってみせてから、「学生時代お前がやらかした失態を、全部ここで暴露されてもいいなら教えてやる」
「なっ!!」
絶句すると同時にネルがネクタイから手を離し、若干締められていた気道が元に戻り呼吸が楽になる。「あれは訓練生のころだったか。搭乗型兵器の操作の説明をろくに聞かなかったせいで」
「あー!!わかったわよ!行けばいいんでしょ!行けば!!」
こっちの言葉を大声で遮って、ネルは逃げるように走り去って行き、「あ、先輩待ってください!」とその後をテトが追いかけていった。「お前も早く行け」
さっき二人が走っていった方に目をやって言うと、グミははっと我に返ったようにしてあたふたと所在なさげに視線を泳がせる。「お邪魔して、申し訳ありませんでした!」
がばっと頭をさげて謝って、身をひるがえすと一目散に駆け出していった。「さっきの子、見かけない顔だけど、誰?」
「新人だ。今学期の首席合格者で俺が指導することになった」
簡単に説明すると、リリーがこちらの顔を覗きこんでくるので、心持ち身を引きながら「何?」と素っ気無く尋ねた。「ん。意外だなーって思って」
言いながらベットに座りなおし、こっちに顔を向けて。「興味なさそうだったじゃん。そういうの」
「無理矢理押し付けられたんだ」
「そう言うわりには、嫌そうに見えないけど?」
レンの反応を楽しむようににやにやするリリーに一度視線を向けてから、「まあな」
素直に認めた。「相変わらずの人気っぷりだねー」
「面白がってるだけだろ。ただ単に」
「さあ。それはどうかしら?」
意味ありげな彼女の言葉に首をひねると、「女の子は色々複雑なのよ」
抽象的に答えて、リリーはふっと顔をほころばせた。(私という女がって言ってた。私という女がって……)
そんなことを考えていると、その時の状況まで浮かんできそうになってかぶりを振ってかき消す。「大丈夫?」
すっと差し出された手を有難くとって、立ち上がってると、「ご、ごめんなさい」
ぺこりと謝罪してから、ようやく相手の顔を見た。「君ってもしかして、レンが指導してる…?」
「はい。そうですけど…」
「やっぱり〜。さっきすれ違った時、どっかで見たことあるなーって思ってたんだけど」
明るい声でそういった後、こちらを上から下までまじまじと眺めてから、にかっと笑い、「俺、クオ・フォルスト。よろしく!」
「グミ・マーシャルです」
お互いに名乗りつつ握手を交わす。「良いな〜、レンの奴。あんな綺麗な女の人捕まえといて、こんな可愛い
「あっ!そっか、ごめんごめん!知らなかったとはいえ、本当にごめん!!」
「え?何がですか?」
いきなり謝られてぽかんとしていると、向こうも「え?」とぽかんとしながら訊いてくる。「えと…。だから、グミちゃんはさ。レンのことをさ、何と言うか…。特別に思ってたりするわけでしょ?」
「と、特別だなんて。そんなたいそうなものじゃ…」
両手を横に振りながら否定して、「確かにアシュフォード先輩のことは尊敬してますし、私の憧れの人です。でもそれだけなんです。だから…」
一旦そこで言葉を切って、小さく息を吐き出し、「別に先輩に恋人がいても、なんら気にすることないはずなんです。驚くことはあっても、落ち込んだり、こんなにもやもやした気分になったりするのは、やっぱりおかしいんですよね?」
思いつくままぽつりぽつり話していくと、自分でも何が言いたかったのかわからないことを口走っていて、すぐに後悔した。「グミちゃんってさ…。もしかしなくても、恋愛経験なかったりする?」
「え?はい…、まあ」
唐突な問いに戸惑いつつ答えると、クオが小さく「やっぱりかー」と独りごちて困ったように視線を横に流した。「まあ、頑張れ」
「はあ……」
よく分からないエールを送られしまい、ちょっとどうしていいかわからなくなった。「それはそうと、グミちゃんレンに憧れてるって言ってたけど、それ本人の前で言わないほうがいいよ」
「どうして…、ですか?」
クオの忠告にきょとんしていると、頬をかきながらうーんと唸って、「あいつって、結構自分を卑下してるとこあるみたいでさ。何でかそういうの本気で嫌がったりするんだよなー」
難しい奴なんだよと苦笑するクオの顔を見上げながら、グミはいまいち釈然としないでいた。「そんなわけで変に面倒くさい奴だけど、悪い奴じゃないから頑張って。俺は応援してるから」
「………」
またもやよくわからない声援を送られて、親指を立ててにかっと笑うクオをじとりと見やった。