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入隊式の朝は見事なまでに快晴だった。
荷物は先日本部に送り届けられたので、寮の部屋は何も置いていない勉強机と椅子、何も入ってない本棚、そして2段ベットという寒々とした風景になっている。
最初にこの部屋をあてがわれた時は不安でいっぱいだったが、今となってはここを出るのが少し名残惜しい。
グミは2段ベットから降りて、下段のベットですやすや眠っているテトを揺すりながら、

「テトー。朝だよー。起きて」

呼びかけるが、うーん、と唸っただけで全く起きる気配がしない。
仕方がないので先に着替えてからもう一度起こすことにして、壁に掛けてあった制服を両手で抱え、若干気を弾ませあがら着替え始めた。
レッド・ウィングの制服は、白のブラウスに、所々に白いラインが入っている黒を基調とした丈の長い上着、黒い太めのベルト、鮮やかな赤のミニスカート、膝丈の少しヒールが高いロングブーツに短いつばの黒い帽子。
左腕に白い生地に赤い卍のマークが描かれた腕章をつけ、赤いネクタイを結んで、最後に薄手の黒い革の手袋をつける。
先日配給されたばかりの新しい隊員服に着替え、自分の姿を見回してから、クローゼットについている姿見鏡に映ってみる。
ずっと夢見ていた姿をした自分がそこに映りだされていて、浮かれてくるりと一回転。

「何やってんの?」

背後から突如声をかけられ、ぴゃあと飛び上がり振り替えると、眠そうな目でこちらを見ているテトと目が合った。

「テ、テト…。いつから見てたの?」

「えっとね、鏡に映った自分の姿を、満足そうにじっと見つめてた辺りくらいからかな?」

一番恥ずかしい所から見られたことを知り、グミはかーっと顔が赤くなっていくのを感じた。

「気持ちはわからなくは無いけど……、いくら何でも浮かれすぎじゃない?」

欠伸交じりに呆れたように言われ、ますます羞恥心に拍車がかかるのを感じつつ、「そ、そんなことより!」と無理矢理話を捻じ曲げた。

「テトも早く着替えないと、初日から遅れちゃうよ!」

「わかった、わかった。着替えるから、ちょっと待ってて」

眠そうに目をこすりながら、もぞもぞと着替え始めるテトを下段のベットに腰掛けて待ちながら、こういうやりとりも今日で最後なんだな、とちょっと感傷的になる。
本部では個人部屋が用意されるらしく、こうやってルームメイトと話したりすることもないのだと思うと、やっぱりちょっと寂しい。
まあ、そうも言ってられなくなるくらいすぐに忙しくなるんだろうけど……。
ふと、レンの姿が脳裏によぎる。
あの人はまだ幼い頃に、この制服に袖を通したことになるのだが、その時どういう思いでいたんだろう。
少なくとも、自分のように浮かれてはいなかったように思える。
レッド・ウィングに入隊するのに、特に年齢制限はない。
養成学校に入るのにも、自分の素性がわかる書類を提出するだけで良いので、希望するなら何歳でも入学できるようになっていた。
それでも入学生は殆どが13歳~15歳なのだが、それ以下の年齢で入学する子は、ほぼ孤児である。
そしてその孤児達の殆どは、反政府組織の起こした事件に巻き込まれ、両親を失った子だ。
レンが養成学校で過ごした年月は4年間で、入隊したのは10歳。
つまり、わずか6歳でここに入学したことになる。
年齢からして彼の生い立ちは何となく想像できるが、6歳なら孤児院に入るのが普通だ。
一体何が彼をそうさせたのだろう。
どうして彼は戦う道を選んだのだろう。
あの人にはそうしないという選択だってあったはずなのに……。

「グミー。着替え、終わったよ~」

「あ、うん」

テトの言葉に現実に引き戻され、グミはベットから腰を上げた。

「どーよ?」

とポーズを決めるテトに、つい笑い出してしまう。
何だかんだ言いつつ、テトも人の事をいえないくらい浮かれているようだ。
二人とも準備完了ということで、少し早いが食堂に向かうことにして、この部屋を出ることにした。
扉を閉める前にもう一度部屋を見渡し、5年間の思い出が詰まったその部屋に「さよなら」と口の中で別れを告げて、静かに扉を閉めた。





「レッド・ウィング」という名は、神話にでてくる裁きの神ロシュアを由来としている。
ロシュアは赤い翼をもっており、創世紀に人々に罪を犯させる悪の心をばらまいた悪魔ギールを倒したとされている。
この神話から、この国に反する悪を滅するという理念に基づき、ロシュアの翼の色をとって「レッド・ウィング」と名付けられたのだ。
という養成学校に在籍している時から散々聞かれて、暗唱できるほどになっているこの話を、長々と聞かされているこの状況を苦行以外の何と言うのだろう。
しかも、こっちは入隊式が始まる前からずっと立たされ続けているので、当然疲れてこないはずがなく。
明らかにうとうとし始めている隣のテトをグミが肘で軽く小突き、

「寝ちゃ駄目だよ、テト」

「う~ん、努力する……」

そこは努力するところなんですか、テトさん。
口に手をやり欠伸をするテトを見やって、駄目だこりゃ、と視線を前に戻そうとした時、視界の端でレンの姿を捉えた。
彼の隣でテトと同様、小さく欠伸をする金髪の女性隊員を呆れたように一瞥し視線を戻した後、そのまま隣の彼女と何か小さく言い合い始めたのが見て取れる。
何となくそのやりとりを見ているとグミの視線に気付いたのか、こちらに目を向けられ、ばちっと目が合ってしまった。
内心慌てて、少し視線を泳がせた後、結局小さく会釈して視線を前に戻した。
胸の鼓動が速まっているのを感じる。
目が合っただけこんな風になってるのに、これから半年間大丈夫なのだろうか。
そんな不安が頭をよぎり、本気で心配になってくる。

(大丈夫、多分。大丈夫な、はず…。大丈夫……よね?)

胸中で何とか奮起の言葉を言いきかせてみるが、次第に怪しくなっていき、むしろ逆効果になっていく。

「なに落ち込んでんの?」

「落ち込んでない…。不安になってきただけ」

「大問題じゃん、それ。それより、どっかのお偉いさんの話、やっと終わったよ」

テトの結構失礼な言葉にグミは俯けていた顔をあげ、壇上を見上げた。

「宣戦宣言」

その言葉の後、青い髪の司令官が壇上に中央に進み出て、一度礼をしてから、毅然とした澄んだ声を講堂のドーム状の天井に響かせる。

「この国に反し、害をもたらす悪に制裁を。そして、正義の為に戦う我々に大神ロシュアの加護があらんことを」

「一同、敬礼!」

一斉に敬礼をした後、司令官が壇上から降りると入隊式終了となり、周りの空気が一気に緩む。
ようやく終わったと、伸びをして体をほぐしていると、近くに固まっている女隊員達の会話が耳に入ってきた。

「ねえ、あの人がレン・アシュフォードかな?」

「わあ、写真と全然ちがう」

「当たり前でしょ。あれ、6年前の写真だよ。それにしても、想像以上にかっこいいね」

「かっこいいっていうより、顔が綺麗だよね」

「あ、わかる、それ」

「一緒に話してる人、もしかして恋人かな」

きゃいきゃい勝手に言い合っている彼女達の話を聞いて、グミは内心呆れつつ、その場を離れる。
引率の隊員が本部内の案内について話しているのを聞きながら、

(そういえば、あの眼帯、いつからつけてるんだろう?)

何となくそんな疑問が浮かび上がり、じっと考え込んでみる。
あの時・・・にはつけていなかったから、少なくとも5年くらい前からだろうか。

(そもそも何でつける事になったんだろう?やっぱり任務でかな?)

そういう事をぐるぐる考えていたが、こればっかりは本人しかわからない事なので、考えるのはやめた。
機会があれば、訊いてみよう。
それができるようになるにどれくらいかかるかは、とりあえずは考えないことにしておくとして。





「あー、お腹すいた~」

周囲のことなど全く気にした風も無いような声量で言うテトに、「ちょっと」とグミは小声で戒める。
周りの人がこっちをちらっと見て、くすくす笑われたり呆れた視線を送られているのがわかり、ちょっと恥ずかしい。
当事者のテトは気にしてないのか、首を傾げて、

「どったの?グミ」

「そういう事、あんまり大きな声で言わないでよ…」

「えー、別に良いじゃん。誰かの悪口言ったわけじゃないんだしー」

「でも、恥ずかしいよ」

「え?私は別に恥ずかしくないけど?」

「そういうことじゃなくて!」

一緒にいるこっちが恥ずかしいんだ、と言おうとした時、前方を歩いていた人に思いっきり激突してしまい、

「ぷっ!」

「きゃっ!?」

反動で後方に2、3歩よろけながら「すいません!余所見をしてて……」と顔を上げたとき、思わず声を失った。
こちらを振り返ったのは女性の隊員で、すらりとした立ち姿の綺麗な女性だった。

「ああ、大丈夫よ。ちょっと驚いただけだから」

そう言った浮かべた微笑は柔らかく、短い髪と同じ色をしたブラウンの瞳のきりりとした目つきが凛々しさをかもしだしている。
女性にしては高い背丈がその凛々しさを強調しており、「綺麗」というより「かっこいい」と言ったほうがしっくりくるかもしれない。

「あの、どうかしたの?」

「あ、いえ、すいません!何と言うかその……」

「綺麗な人だなー、って思ったんだよねー」

言葉を詰まらせたグミの心の代弁をテトがからかうような口調でしたので、グミは慌てて「ちょっと、テト!」と抗議の目を向けた。
女性はきょとんとした顔をした後、くすくすと笑って「ありがとう」とお世辞抜きで綺麗な笑顔で答える。

「そういえば、あまり見かけない顔だけど、もしかして新入隊員かしら?」

「はい!えっと、私は」

「グミ・マシャール。そして隣の彼女は友人のテト・エイトン」

背後から聞こえた声に思わず「え!?」とテトと一緒に声をあげて振り返ると、白い肌に淡いピンクの長い髪をした女性が立っていた。い、いつの間に…。

「年は16歳で今期生の学年首席。これといった問題も起こしたこともなく、養成学校の教官らからは好印象をもたれていた。テトのほうは18歳で、実技試験の成績の良さから特別待遇で特待生に任命された。2人は訓練生の頃からのルームメイトで交友関係は深い。志願した部隊はどちらも殲滅部隊」

「え、あの、ちょっと!」

すらすら暴露される個人情報をそこまで聞いて、ようやく我に返り制止の言葉をかける。
しかし脳内で色々な疑問がに浮かび、どれから訊くべきかと考えあぐねていると、

「ルカ…。あなたいつからそこにいたの?」

「そうねえ…。メイコがこの子達に綺麗と言われて愛想笑いをしたあたりからかしら?」

「ちょっと、誤解を生む言い方しないでよ。愛想笑いなんてしてないわよ」

「あら、てっきりそうだ思ったんだけど…。よく言われるものね、綺麗って」

「……何かすごく皮肉っぽく聞こえるんだけど」

完全に会話に置いてけぼり状態になって、両者を見比べることしかできず困惑していると、メイコと呼ばれた女性はそれに気付いたのか、「ああ、ごめんなさいね」と苦笑してから片手で示して、

「彼女はルカ・メトロイド。諜報部隊のリーダーよ。気を抜くとさっきみたいに背後に立たれるから、気を付けてね」

「は、はあ。でも、どうして私達のことを?」

「それはね。私が諜報部隊員だからよ」

いまいち質問の答えになってない返事をしながら、ルカはにっこりと笑った。
綺麗な笑顔だったが、さっきのことがあったので、どうも裏があるように思えて仕方がない。

「ちなみにそちらの彼女の名前は、メイコ・ロックベーヌ。殲滅部隊員でカイト司令官と幼馴染でお互い強い信頼関係を築いている。しかし、メイコ自身はその関係を」

「あー!!何、必要ないことまで公表しようとしているのよ!!」

「ああ、これは言っちゃいけないことだったわね。すっかり忘れてたわ」

涼しい顔で白々しく答えるルカを、「あんたねえ…」と若干顔を赤くさせてメイコは睨みつける。
何となくそれでルカが言わんとしていたのを感じ取り、この人を決して敵に回してはいけないということが心に深く刻み込まれた瞬間だった。
ルカは穏やかな彫りの深い顔立ちをしており、淡いブルーの瞳と淡いピンクの髪が白い肌に映えて、強い印象を受ける人物だった。
手足はすらっとしており、メイコの「凛々しい」のとは違う、純粋に「綺麗」な女性だ。
多分こんな衝撃的な出会い方をしていなかったら、メイコの時と同様に見惚れてしまっていただろう。
そんな風に思って二人を眺めていると、不意にテトが袖をくいくいと引っ張って来て、指を指された方を見ると向こうからレンが歩いてくるのが見え、思わずグミは顔を逸らしてしてしまった。

「何で逸らすのさ?」

「だ、だって、急だったし、びっくりして……」

自然と声をひそめて言い合っていると、メイコが「どうかしたの?」と顔を覗きこんできた。

「あら、レンじゃない」

ルカのその声に微妙に反応してしまい、そのまま顔を俯かせた。
顔を上げようとしないグミを怪訝に思ったメイコが、テトに問いかけるような視線を向けると、テトは一つ溜め息を吐いて、

「グミは昔からアシュフォードさんに憧れてて、ご本人に戦闘指導してもらうことになったんですけど…。アシュフォードさんを前にすると緊張しちゃって、こうなっちゃうんです」

「ああ、なるほどねー…」

メイコはそう言って少しの間何か考えこむと、突如、片手を振りながら「おーい、レン!」と呼びかけてレンの注意をこちらに向けた。

「ちょ、ちょっとメイコさん!?」

メイコの思いがけない行動にうろたえるグミをよそに、こちらに向かってくるレンと話を続ける。

「これから食堂行くとこ?」

「そんなとこ…だ……?」

その時、グミがいることに気づいたらしく、ばっちり目が合ってしまい、

「あ」
「あ」

見事に二人の声がハモった。
条件反射でグミは目線を横に逃がしてしまい、レンの方は何でお前ら一緒にいるんだ、と言いたげな顔をしていると、

「私も食堂に行こうとしてたんだけど、その時この娘達にばったり会ったのよ。ね?グミ」

「へっ?」

いきなり話をふられ、裏返った声をあげて戸惑っていると、テトが「グミ、ゴーゴー」と囁きながら、グミの背中をグイグイと押し始めた。

「テト!?何で!?」

「チャンス到来じゃん。今のうちに名誉挽回だよ」

「頑張んなさい、グミ」

「ちょっ、メイコさんまで!?」

必死に踏ん張って抵抗しつつルカに視線だけで助けを求めたが、完全に傍観を決め込まれ、抵抗虚しく押し出されしまい、再びレンと顔を合わす羽目になった。
レンは明らかに怪訝そうな顔でこっちを見ており、とにかく何か言わないと、とグミはとショート寸前の思考回路を何とか働かせて、

「あ、あの…!」

うわずった声でそこまで言ったが、続けて言う言葉が見つからず絶句する。
え、えーと、「おはようございます」はおかしいよね?今昼だし……。
かといってこの流れで「こんにちは」っていうのも何かすごく変じゃないだろうか?
じゃあ、「本日もお日柄よく」?
いや、明らかにおかしすぎる!!絶対変な人だって思われる!!
というか既に思われてるんじゃ……。
視線を泳がせながら、混乱してそんなことをぐるぐると考えていると、上から呆れたような溜め息が降ってきて、そこで思考が完全に止まった。

(だめだ…。もう、絶対変な娘だと思われた……)

当たって砕けろ、というより当たる前に粉々に粉砕してしまった状況に絶望して、いたたまれなくなりそのまま顔を俯ける。
すると、ふいに両肩にふわりと手を置かれる感触があって、驚いて反射的に顔をあげると、

「肩の力を抜け。別に取って食うわけじゃない」

透き通るような青い瞳で真っ直ぐこちらの目を見据え、静かなけれど芯が通った声でレンは言った。
グミがぽかんとしてレンの顔を見上げていると、

「ようやく、ちゃんと目を合わせたな」

「え…?あ……、すみません」

「謝らなくていい」

レンは先ほど変わらないトーンで言うと、肩から手を外し、その脇を抜けた。
しかし、暫く歩いた所で何か思い出したように立ち止まって振り返り、「それと」と続けた。

「明日、朝食終えたらトレーニングルームに来い。稽古つけてやる」

「は、はい!」

「いい返事だ」

そういい残すと、踵を返して廊下の向こうへと歩いていった。
初めて会話らしい会話をして、若干放心していると、お疲れと言うようにメイコに肩に手を置かれ、「どうやら、悪い風には思われてないみたいね」とルカが静かに分析した。

「で、でも、変な人だと思われたかもしれないし……」

「うーん、それは否めないわね」

「そうね」

あっさり肯定されて胸にざくざくと棘のようなものが突き刺さり、わりと傷ついて落ち込んでいると、「でも」とルカはレンが歩いていった方に目を向ける。

「レンの場合、悪い風に思ったり関わろうと思わない人間には、自分から話しかけようとしないわ。もしそうなら、さっきみたいに混乱してる相手を落ち着かせようとは絶対にしないし、そのまま無視してここから去っていったはずよ」

「レンは嫌いな相手の存在を完全に抹消させるからねー…。話しかけられても当然無視だし、『そんな奴いたか?』って本人の前でも平然と言っちゃうし…」

メイコは溜め息まじりに言うと、まったくといった感じに額に手を当てた。
悪い風に思われてない。
彼にそう思われてることが何故か凄く嬉しく思えて、グミにはそれだけで十分だった。





「よいしょっと…。こんなもんかな」

手についた埃をパンパンと払いながら、独りごちる。
壁にかけた時計を見ると、深夜近くになってて思わず「うわ…」と声を漏らした。
用意された部屋に着いてから、間に夕食を挟みつつ荷解きをしていたのだが、思ったより時間がかかってしまった。
部屋の広さは学校の寮の部屋より一回りほど大きく、一人で使うにしては十分すぎるくらい広い。
その上、各部屋にトイレや洗面台、脱衣所にバスルームまであり、待遇の良さに若干辟易してしまうほどだ。
うーん、と一つ背伸びをしてから、ふと机の上に置かれた写真立てに目をやった。
幼い頃の自分と両親との写真だ。
穏やかな顔をした父と慈愛に満ちた微笑みをたたえた母、その間で二人の手を握って幸せそうに笑っている自分がそこに写っている。
それを手にとって、少しの間だけ眺める。

「ようやく、ここまで来たよ」

小さく呟くように、写真の向こうの両親に報告した。
明日からここの隊員としての毎日が始まるのだ。
不安が全くないと言ったら嘘になる。
でも、それよりも新しい生活へのわくわくするような高揚感で胸がいっぱいだった。

「応援しててね。父さん、母さん」

そう言って笑って見せると、写真立てを元の位置に戻した。
不意に欠伸を漏らすと、急に睡魔に襲われ、今日はもう眠ってしまうことにする。
手早く着替えて明かりを消してベットに潜りこむと、荷解きでくたくたになっていたせいか、本格的な睡魔がやってくるのにそんなに時間はかからなかった。
それに抗うことはせず、そのまま心地よい眠りの中へと沈んでいった。


グミのレッド・ウィングとしての1日目はこうして終えた。
これから彼女は茨の道を歩むことになる。
それは鋭利な棘が無数にある、とても過酷な道。
そのことを彼女が知ることになるのは、まだもう少し先の話となるのだが。



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